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 [千字文註解] [四字熟語(抜粋)] [漢字辞典] [御家千字文]

01〜10 (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(001)天地玄黄 宇宙洪荒(テンチゲンコウ ウチュウコウコウ) てんはくろくちはき、うちゅうはこうこうなり。

 天は玄(くろ)く地は黄色く、宇宙は果てしなく広い。

(002)日月盈昃 辰宿列張(シンシュクレッチョウ ジツゲツエイショク) じつげつはみちかたむき、ほしぼしはならびひろがる。

 太陽や月は満ち欠けがあり、星は空に布きならんでいる。

(003)寒來暑往 秋收冬藏(カンライショオウ シュウシュウトウゾウ) さむさきたりあつさゆき、あきにおさめふゆにたくわう。

 寒さが来れば暑さは去る。秋が終わると冬に籠る。

(004)閏餘成歳 律呂調陽(ジュンヨセイサイ リツリョチョウヨウ) じゅんよとしをなし、りつりょはようをととのう。

 閏(うるう)月で日数を整え、音曲の調子を合わせてて陰陽を調和させる。

(005)雲騰致雨 露結為霜(ウントウチウ ロケツイソウ) くものぼりてあめをいたし、つゆむすびてしもとなる。

 雲が起これば雨をもたらし、露が凍れば霜となる。

(006)金生麗水 玉出崑岡(キンセイレイスイ ギョクシュツコンコウ) きんはれいすいにしょうじ、ぎょくはこんこうにいず。

 金を産すは麗江の流れ、玉石を出すのは崑崙の山。

(007)劍號巨闕 珠稱夜光(ケンゴウキョケツ シュショウヤコウ) けんをきょけつとごうし、たまをやこうとしょうす。

 巨闕(きょけつ)という名剣と夜光の珠はともに至上最高の宝。

(008)果珍李奈 菜重芥薑(カチンリダイ サイチョウカイキョウ) かはりだいをちんとし、さいはかいきょうをおもんず。

 珍重な果実はすももとからなし(柰)、重宝な野菜はからしとしょうが。

(009)海鹹河淡 鱗潛羽翔(カイカンカタン リンセンウショウ) うみはしおからくかわはあわし、うおをひそみとりはかける。

 海は塩辛く、河は淡白なもの。魚は水中に潜り、鳥は空を飛び駆ける。

(010)龍師火帝 鳥官人皇(リュウシカテイ チョウカンジンコウ) りゅうしとかていと、ちょうかんとじんこうと。

 龍の伏羲と火の神農、鳥の小r(しょうこう)の三皇が世を治めた。

11〜20 (01) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(011)始制文字 乃服衣裳(シセイモンジ ダイフクイショウ) はじめてもじをつくり、すなわちいしょうをきる。

 蒼頡(そうけつ)が初めて文字を作り、胡曹(こそう)が上下衣服を作った。

(012)推位讓國 有虞陶唐(スイイジョウコク ユウグトウトウ) くらいをおしくにをゆずる、ゆうぐ (舜)ととうとう (尭)は。

 舜(有虞)と堯(陶唐)は、夫々の位を推しすすめ國を譲った。

(013)弔民伐罪 周發殷湯(チョウミンバツザイ シュウハツイントウ) たみをあわれみつみをうつ、しゅうのはついんのとう。

 暴君に民を哀れみ、周の發王、殷(いん)の湯王がそれを討った。

(014)坐朝問道 垂拱平章(ザチョウモンドウ スイキョウベンショウ) ちょうにざしてみちをとい、すいきょうしてべんしょうす。

 玉座に座してただ治道を問い、衣を垂れ手をこまねきながら天下治める。

(015)愛育黎首 臣伏戎羌(アイイクレイシュ シンプクジュウキョウ) れいしゅいつくしみそだて、じゅうきょうをしんぷくせしむ。

 国内では民を愛しみ育て、辺境の蛮族を服従させ徳を天下に知らしめる。

(016)遐邇壹體 率賓歸王(カジイツタイ ソツビンキオウ) とおきもちかきもちをひとつにし、そつびんおうにしたがう。

 遠き近きも諸国が一体となり、地の果ての人々までも王に従う。

(017)鳴鳳在樹 白駒食場(メイホウザイジュ ハククショクジョウ) おおとりはきにあってなき、しろこまはにわにはむ。

 名君の世は安定、鳳凰が樹で鳴き、王を慕って来た賢者の馬は草を食む。

(018)化被草木 ョ及萬方(ガヒソウボク ライキュウバンポウ) かはそうもくをもおおい、らいはばんぽうにおよぶ。

 名君の徳化は草や木まで及ぶ。民の幸いは国々に満ちる。

(019)蓋此身髮 四大五常(ガイシシンパツ シダイゴジョウ) けだしこのみとかみは、しだいごじょうなり。

 思うに我が身体髪膚は地水火風の四大、心は仁義礼智信の五常を備える。

(020)恭惟鞠養 豈敢毀傷(キョウイキクヨウ キカンキショウ) うやうやしくきくようをおもい、なんぞあえてきしょうせん。

 父母が愛しみ育てたこの自分の身体を、どうして痛め傷つけられようか。

21〜30 (01) (11) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(021)女慕貞* 男效才良(ジョボテイケツ(*粛) ダンコウサイリョウ) おんなはていけつをしたい、おとこはさいりょうにならえ。

 女は心清く正しい行いを、男は才智を伸ばして才徳のある人間たれ。

(022)知過必改 得能莫忘(チカヒツカイ トクノウバクボウ) あやまちをしらばからなずあらため、のうをえてはわするるなかれ。

 己の過失に気付いたら必ず改め、習得したことは忘れるなかれ。

(023)罔談彼短 靡恃己長(ボウダンヒタン ビジキチョウ) かれのたんをかたるなかれ。おのれのちょうをたのむなかれ。

 人の短所は吹聴してはならない。自分の長所に奢り高ぶってはならない。

(024)信使可覆 器欲難量(シンシカフク キヨクナンリョウ) まことはふくすべからしめ、うつわははかりがたからんことをほっす。

 約束ごとは必ず守り、己の器量は他人に量り難いようにしておく。

(025)墨悲絲染 詩讚羔羊(ボクヒシセン シサンコウヨウ) ぼくはいとのそまるをかなしみ、しはひつじをさんす。

 墨翟は染糸の様に人心の染悪を憂い、詩経は温順な羔羊の徳を讃えた。

(026)景行維賢 克念作聖(ケイコウイケン コクネンサクセイ) おおいにおこなうはこれかしこく、よくおもうはせいとなる。

 立派な行いを積む人は賢人と よく人の道を思念する人は聖人となる。

(027)コ建名立 形端表正(トクケンメイリツ ケイタンヒョウセイ) とくたてばなたち、かたちただしければかげただし。

 徳を施す者は名を成す。形正せば影も正しい。

(028)空谷傳聲 虚堂習聽(クウコクデンセイ キョドウシュウチョウ) くうこくにこえをつたえ、きょどうにきくをならう。

 無人の谷でも人に話す様に、無人の座敷でも師の声を聴く様な態度で。

(029)禍因惡積 福縁善慶(カインアクセキ フクエンゼンケイ) 災いはあくのつむにより、幸いはよきことのよろこびによる。

 悪行の積み重ねが災い招き、善行積めば幸い来る。

(030)尺璧非寶 寸陰是競(セキヘキヒホウ スンインシキョウ) せきへきはたからにあらず、すんいんはこれきそう。

 聖人は一尺の玉(ぎょく)を宝として尊ぶより、得難い寸時を重んじる。

31〜40 (01) (11) (21) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(031)資父事君 曰嚴與敬(シフジクン エツゲンヨケイ) ちちにとりてきみにつかう、いわくたっとびうやまうとなり。

 父に仕えるのと同じ心で君に仕える。これ尊厳と敬愛をいう。

(032)孝當竭力 忠則盡命(コウトウケツリョク チュウソクジンメイ) 孝にはまさに力をつくすべく、忠にはすなわち命をつくすべし。

 父母には心力の限りを尽くして孝行し、君主には命の限り忠義で仕えよ。

(033)臨深履薄 夙興温凊(リンシンリハク シュクコウオンセイ) 深きにのぞみ薄きをふむごと、つとにおきてあたためすずしくす。

 忠孝は深い淵に望む如く薄氷を履む如くに、早起きして温涼に心を配る。

(034)似蘭斯馨 如松之盛(ジランシケイ ジョショウシセイ) らんににてこれかんばしく、まつのさかんなるがごとし。

 孝行が進めば蘭の香の様に誉れも高まり、盛んな松の様に家も栄える。

(035)川流不息 淵澄取映(センリュウフソク エンチョウシュエイ) かわはながれてやまず、ふちはすみてひかりをとる。

 に徳行を積積み続ければ、澄ん淵が万象を映す如くその人望も高まる。

(036)容止若思 言辭安定(ヨウシジャクシ ゲンジアンテイ) かたちはおもうがごとし、ことばはやすらかにさだめよ。

 立ち居振る舞いは厳かにし、言葉は落ち着いて穏やかに。

(037)篤初誠美 慎終宜令(トクショセイビ シンシュウギレイ) 初めをあつくすればまことにうるはし、終りを慎むはよかるべし。

 初めに誠意しめすが美徳。終わりを慎むはなお良し。

(038)榮業所基 籍甚無竟(エイギョウショキ セキジンムキョウ) えいぎょうのもとづくところ、せきじんにしておわりなし。

 踏むべき道をきちんと踏めば、名声は高まり後の世まで伝わるであろう。

(039)學優登仕 攝職從政(ガクユウトウシ セツショクジュウセイ) 学ゆたかなればのぼりてつかえ、職をとりてまつりごとにしたがう。

 学に優れれば仕官の道を得る。登朝したら国政の一端に連なれ。

(040)存以甘棠 去而益詠(ソンイカントウ キョジエキエイ) そんするにかんとうをもってし、さってますますえいず。

 梨の樹の下で訴を聞いた召公を慕い、その死後も徳を称えて詠った。

41〜50 (01) (11) (21) (31) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(041)樂殊貴賤 禮別尊卑(ガクシュキセン レイベツソンピ) がくはきせんをことにし、れいはそんぴをわかつ。

 音楽には官位によって差異がある。儀礼にも尊卑長幼をの秩序がある。

(042)上和下睦 夫唱婦隨(ショウワカボク フショウフズイ) かみやわらぎしもむつみ、おっととなえつましたがう。

 人君は臣民を憐れみ臣民は君主を尊ぶ。家庭でも夫が唱えれば妻が従う。

(043)外受傅訓 入奉母儀(ガイジュフクン ジュホウボギ) そとにてはふのおしえをうけ、いりてはははのおしえをうく。

 外では師に書計を学び、家では母の教えを身に付け修めていく。

(044)諸姑伯叔 猶子比兒(ショコハクシュク ユウシヒジ) しょこはくしゅく、ゆうしをこにひす。

 伯叔母、伯叔父は父の兄弟だから、我が子同様に愛し育ててくれる。

(045)孔懷兄弟 同氣連枝(コウカイケイテイ ドウキレンシ) はなはだおもうはけいていなり、きをおなじうしてえだをつらぬ。

 強く思い合うは兄弟姉妹。父母の気を受け、同幹の枝葉の如く一心同体。

(046)交友投分 切磨箴規(コウユウトウブン セツマシンキ) こうゆうにはぶんをとうじ、せつましんきす。

 お互いの誠を捧げて友と交わり、互いに切磋琢磨して修行に励むべし。

(047)仁慈隱惻 造次弗離(ジンジインソク ゾウジフツリ) じんじいんそくは、ぞうじもはなれず。

 情もて慈しみ、悼み憐れむ。人の道はこの四つを一時でも離るべからず。

(048)節義廉退 顛沛匪虧(セツギレンタイ テンパイヒキ) せつぎれんたい、れんぱいにもかかず。

 節度、道義を守り、心清く遜ることは、咄嗟火急の場合でも揺るがず。

(049)性靜情逸 心動神疲(セイセイジョウイツ シンドウシンヒ) こころしずかなればこころやすく、こころうごかばこころつかる。

 本姓の穏やかな時は心地和らぎ、感情の起伏が激しい時は神経が疲れる。

(050)守真志滿 逐物意移(シュシンシマン チクブツイイ) まことをまもればこころみち、ものをおえばこころうつる。

 誠実な人は心が満ちて平安で、事物に目を奪われると心も煩わされる。

51〜60 (01) (11) (21) (31) (41) (61) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(051)堅持雅操 好爵自縻(ケンジガソウ コウシャクジビ) みさをかたくたもてば、よきくらいおのずからつながらん。

 堅く正しく節度を守り、行いを律すれば、高い官位は自然に付いてくる。

(052)都邑華夏 東西二京(トユウカカ トウセイニケイ) みやこはるかに、とうざいににきょうあり。

 華夏(中国)の都は東西に二つ置かれた。東都は洛陽、西都は長安。

(053)背芒面洛 浮渭據(ハイボウメンラク フイキョケイ) ぼうをせにしらくにむかい、いにうかびけいによる。

 芒山を背に洛水を見る 渭水に浮かび水に拠る

(054)宮殿盤鬱 樓觀飛驚(キュウウデンバンウツ ロウカンヒキョウ) きゅうでんはばんうつし、ろうかんはひきょうす。

 宮殿には雲が棚引き、高楼は聳え立ち、まるで鳥が飛び立つようだ。

(055)圖寫禽獸 畫綵仙靈(トシャキンジュウ ガサイセンレイ) きんじゅうをうつしえがき、せんれいをえがきいろどる。

 楼閣の内部には鳥や獣を描き、神々や仙人を描いた壁画が満ちて眩しい。

(056)丙舍傍啓 甲帳對楹(ヘイシャボウケイ コウチョウタイエイ) へいしゃはかたわらにひらけ、こうちょうははしらにたいす。

 宮殿内の小さな家々の門は開いており、最高級のが柱の前に連なる。

(057)肆筵設席 鼓瑟吹笙(シエンセツセキ コシツスイショウ) むしろをつらねせきをもうけ、ことをひきふえをふく。

 宮殿では筵を敷き席を設け宴を張る。大琴をひき笙の笛を吹く。

(058)升階納陛 弁轉疑星(ショウカイノウヘイ ベンテンギセイ) かいをのぼりへいにいる、べんはてんにしてほしとうたがわる。

 宴席に集う者達が宮殿の階段を昇る様は、冠が煌めき空の星のようだ。

(059)右通廣内 左達承明(ユウツウコウダイ サタツショウメイ) みぎはこうだいにつうじ、ひだりはしょうめいにたっす。

 宮殿内で右へ行くと通じる廣内殿に通じ、左は承明殿に達する。

(060)既集墳典 亦聚羣英(キシュウフンテン エキシュウグンエイ) すでにふんてんをあつめ、またぐんえいをあつむ。

 廣内殿には既に数多の書物を集め、承明殿には学識才賢を集めた。

61〜70 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (71) (81) (91) (101) (111) (-125)

(061)杜稾鍾隸 漆書壁經(トコウショウレイ シツショヘキケイ) とこうしょうれい、しっしょへきけいあり。

 杜操トソウの草書と鍾繇ショウヨウの隷書、漆書の典籍、壁中六経がある。

(062)府羅將相 路侠槐卿(フラショウショウ ロキョウカイケイ) ふにはしょうしょうつらなり、みちにはかいけいならぶ。

 帝都には将軍や宰相の役所が連なり、大通りには三公九卿の車馬が並ぶ。

(063)戸封八縣 家給千兵(コホウハッケン カキュウセンペイ) こにははっけんをほうじ、いえにせんぺいをきゅうす。

 優れた民には八県の租税を与え、戦功の民には千人の兵士を給した。

(064)高冠陪輦 驅轂振纓(コウカンバイレン クコクシンエイ) こうかんれんにしたがい、こくをかりえいをととのふ。

 高官が天子の乗り物につき従い、車を駆る侍臣達の冠の紐が美しい。

(065)世祿侈富 車駕肥輕(セイロクシフ シャガヒケイ) せいろくはしふ、しゃがはひけい。

 代々裕福な家は、車を引く馬は肥えて逞しく、車も軽やかに走る。

(066)策功茂實 勒碑刻銘(サクコウモジツ ロクヒコクメイ) さくこうもじつなれば、ひにろくしめいにこくす。

 功を上げた人の名は碑に勲功を刻み、銘に記して後世にたたえた。

(067)磻溪伊尹 佐時阿衡(ハンケイイイン サジアコウ) はんけいといいんは、ときをたすくるあこう。

 太公望と伊(いいん)は国を興す助けをした名宰相である。

(068)奄宅曲阜 微旦孰營(エンタクキョクフ ビタンジュクエイ) きょくふにえんたくす。たんなかりせばたれかいとなまん。

 周公旦は殷王を討ち曲阜に館を構えた。他に誰がこの地を治めたろう。 

(069)桓公匡合 濟弱扶傾(カンコウキョウゴウ セイジャクフケイ) かんこうはただしあわせ、よわきをすくいかたむくをたすく。

 桓公は国の乱れを正し、弱小国を救い、傾きかけていた国を助けた。

(070)綺迴漢惠 説感武丁(キカイカンケイ エツカンブテイ) きはかんけいをかえし、えつはぶていをかんぜしむ。

 綺里季キリキは漢恵帝を救い、帝位に就いた。傅説フエツは殷の宰相となった。

71〜80 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (81) (91) (101) (111) (-125)

(071)俊乂密勿 多士寔寧(シュンガイミツブツ タシショクネイ) しゅんがいみつぶつして、たしまことにやすんず。

 太公、伊尹、周公などの賢者を天子が用い、天下はよく治まった。

(072)晉楚更霸 趙魏困(シンソコウハ チョウギコンオン) しんそはこもごもにはたり、ちょうぎはおうにくるしむ。

 晋と楚は代わる代わる覇を競い、趙と魏は秦の脅威に苦しめられていた。

(073)假途滅虢 踐土會盟(カトメツカク センドカイメイ) みちをかりてかくをほろぼし、せんどにかいめいす。

 晋は虞グを通り虢を滅ぼし、後、虞も滅ぼし 踐土で會盟、覇者となる。

(074)何遵約法 韓弊煩刑(カジュンヤクホウ カンヘイハンケイ) かはやくほうにしたがい、かんははんけいにやぶる。

 蕭何は秦に簡素な法を施行し、韓非子は煩わしい法を施行し破綻した。

(075)起翦頗牧 用軍最精(キセンハボク ヨウグンサイセイ) きせんとはとぼくとは、ようぐんにさいせいす。

 秦の四人の名将は、軍を率いるに最も精通した武将の代表的な者だ。

(076)宣威沙漠 馳譽丹青(センイサバク チヨタンセイ) いをさばくにのべ、ほまれをたんせいにはす。

 砂漠の地までも勇名を轟かせ、死後も壁画になるほど名声が伝わる。

(077)九州禹跡 百郡秦并(キュウシュウウセキ ヒャクグンシンヘイ) きゅうしゅうはうのあと、ひゃくぐんはしんあわす。

 禹(う)が中国を九州に分け、秦が百郡を併合し天下を統一した。

(078)嶽宗恆岱 禪主云亭(ガクソウコウタイ ゼンシュウンテイ) がくはこうたいをそうとし、ぜんはうんていをしゅとす。

 山は恒山と泰山を尊宗し、祭天の儀は麓の云亭の二山を第一にした。

(079)雁門紫塞 鶏田赤城(ガンモンシサイ ケイデンセキジョウ) がんもんとしさいと、けいでんとせきじょうと、

 北辺の要地に雁門山と万里の長城がある。鶏田と赤城は北境にある。

(080)昆池碣石 鉅野洞庭(コンチケッセキ キョヤドウテイ) こんちとけっせきと、きょやとどうていと、

 山沢湖沼としては昆明の池、碣石山、鉅野の湿地、洞庭湖があげられる。

81〜90 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (91) (101) (111) (-125)

(081)曠遠緜邈 巖岫杳冥(コウエンメンバク ガンシュウヨウメイ) こうえんめんばくとして、がんしゅうようめいたり。

 原野、湖沼が遠く広がり、山々も遥か彼方に仄かに見えるだけである。

(082)治本於農 務茲稼穡(チホンヨノウ ムシカショク) ちはのうをもととす、これかしょくにつとめよ。

 国を治める根本は農業。種をまき収穫するまでこれに努める。

(083)俶載南畝 我藝黍稷(シュクサイナンポ ガゲイショショク) ことをなんぽにはじめ、われしょしょくをうう。

 南面の日当たりのよい畑で耕作し、きび、あわを植えて農業に励む。

(084)税熟貢新 勸賞黜陟(ゼイジュクコウシン カンショウチュッチョク) じゅくをみつぎしんをみつぎ、かんしょうしちっちょくす。

 穀物を税として納めるは農民の務め。成績に応じた賞罰で農業を奨める。

(085)孟軻敦素 史魚秉直(モウカトンソ シギョハイチョク) もうかはそをたっとび、しぎょはちょくをとる。

 孟子は人の善を愛し、史魚は「論語」で誉められるほど正直一途だった。

(086)庶幾中庸 勞謙謹敕(ショキチュウヨウ ロウケンキンチョク) ちゅうようをしょきし、ろうけんきんちょくにす。

 願わくば人は偏らず、功を驕らず、自らを慎み戒めて生きたいものだ。

(087)聆音察理 鑑貌辨色(レイインサツリ カンボウベンショク) おとをきいてりをさっし、かたちをみていろをわきまう。

 人の話しをよく聞いて真意を知り、顔を観察して感情の動きを知る。

(088)貽厥嘉猷 勉其祗植(イケツカユウ ベンキシショク) そのかゆうをつたえ、そのししょくをつとむ。

 よい考えを子孫に残す。ただそのために慎み深く勉める。

(089)省躬譏誡 寵搓R極(セイキュウキカイ チョウゾウコウキョク) みをかえりみてきかいし、ちょうませばこうきょくす。

 自らの行いを省みて戒め、栄誉を得れば驕り高ぶらぬよう身を慎むべし。

(090)殆辱近恥 林皋幸即(タイジョクキンチ リンコウコウソク) はじにちかくはじにちかづかば、りんこうにつくことをねがう。

 出世を人から妬まれ恥辱を受けるなら、田舎で閑静な暮らしをすべきだ。

91〜100 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (101) (111) (-125)

(091)兩疏見機 解組誰逼(リョウソケンキ カイソスイヒョク) りょうそきをみる。そをときてたれかせまらん。

 疏広ソコウと疏受ソジュ父子は機を読んで官職を自ら勇退して故郷に帰った。

(092)索居陌| 沈默寂寥(サクキョカンショ チンモクセキリョウ) さくきょかんしょし、ちんもくしてせきりょうたり。

 田舎で静かに暮らす。世事に関わらず俗人と交わらずひっそりと。

(093)求古尋論 散慮逍遙(キュウコジンロン サンリョショウヨウ) いにしえをもとめてじんろんし、りょをさんじてしょうようとす。

 昔の人の思想を論じたり、自然の中を心のままにぶらぶらと歩く。

(094)欣奏累遣 慼謝歡招(キンソウルイケン セキシャカンショウ) よろこびいたりてわずらいさり、うれいさりてよろこびまねく。

 喜ぶの気持ちで心が満ちれば悩みや憂いは去り、楽しいことが集まる。

(095)渠荷的歴 園莽抽條(キョカテキレキ エンポウジョウジョウ) きょかはてきれきとして、えんぽうはえだをぬきんず。

 溝には蓮の花が鮮やかに、庭の草葉は茂り、木々の枝は豊かに伸びる。

(096)枇杷晩翠 梧桐早凋(ビワバンスイ ゴトウソウチョウ) びわはおそくみどりに、ごとうははやくしぼむ。

 枇杷は遅くまで青々とした葉をつけて、桐は秋には早々と葉が萎れる。

(097)陳根委翳 落葉飄颻(チンコンイエイ ラクヨウヒョウヨウ) ちんこんはいえいし、らくようはひょうようたり。

 古い根はしぼみ枯れ、落ち葉は散って風のままに舞っている。

(098)遊鵾獨運 凌摩絳霄(ユウコンドクウン リョウマコウショウ) ゆうこんはひとりめぐり、こうしょうをりょうます。

 大鳥が一羽、天空のはるか高みを悠々と舞い飛んでいる。

(099)耽讀翫市 寓目嚢箱(タンドクガンシ グウモクノウソウ) たんどくいちにもてあそび、めをのうそうにぐうす。

 街に出ては書物を読み耽り、家で袋や箱の書物で只管学問に励む。

(100)易輶攸畏 屬耳垣墻(イユウユウイ ショクジエンショウ) いゆうはおそるるところ、みみをえんしょうにつく。

 軽率なことはとかく畏れ慎むべきし。生垣や壁には耳がある。

101〜110 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (111) (-125)

(101)具膳飡*飯 適口充腸(グゼンサン*餐ハン テキコウジュウチョウ) ぜんをそなえはんをくらう。くちにかないちょうにみつ。

 料理の膳を整えて食事を摂れば、口に味良く馳走を食べるに及ばない。

(102)飽飫烹宰 飢厭糟糠(ホウヨホウサイ キエンソウコウ) あきてほうさいにもあき、うえてはそうこうにもたる。

 満腹の時はいかに美味な料理でも飽き、飢えた時は粕や糠でも食べる。

(103)親戚故舊 老少異糧(シンセキコキュウ ロウショウイリョウ) しんせきこきゅう、ろうしょうりょうをことにす。

 親戚や昔からの知己、老人と若者には夫々に応じた饗応をすべし。

(104)妾御績紡 侍巾帷房(ショウギョセキボウ ジキンイボウ) しょうはせきぼうをぎょし、いぼうにじきんす。

 女の人は家内で糸を紡いで家事をし、閨(ねや)をつとめて夫に仕える。

(105)紈扇圓潔 銀燭煒煌(ガンセンエンケツ ギンショクイコウ) がんせんはえんにしてけつ、ぎんしょくはいこうなり。

 白い絹地のうちわは丸く、銀製の燭台には灯火が光り輝いている。

(106)晝眠夕寐 藍笋象床(チュウミンセキビ ランジュンショウショウ) ひるにねむりゆうべにいぬ、らんじゅんぞうしょう。

 昼寝と夜の就寝には、夫々青い竹の敷物と象牙の寝台がある。

(107)絃歌酒讌 接盃舉觴(ゲンカシュエン セツハイキョショウ) げんかしゅえんし、はいをまじえしょうをあぐ。

 琴や歌で酒宴を催し、語り合い、杯をを重ねて宴を楽しむ。

(108)矯手頓足 ス豫且康(キョウシュトンソク エツヨシャコウ) てをあげあしをふみ、えつよしてかつやすし。

 手を振り足を踏み、跳ね舞うことは喜びかつ心も安まる。

(109)嫡後嗣續 祭祀蒸嘗(テキコウシショク サイシジョウショウ) てきはこうをしぞくし、さいしはじょうしょうす。

 嫡子は父母の後を継ぎ、秋の嘗・冬の烝等の祭祀をして先祖を祀る。

(110)稽顙再拜 悚懼恐惶(ケイソウサイハイ ショウクキョウコウ) けいそうさいはいし、しょうくきょうこうす。

 祭祀では額を地につけ二度深く礼拝し、祖先を恐れかしこみ敬い拝む。

111〜120 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (-125)

(111)牋牒簡要 顧答審詳(センチョウカンヨウ コトウシンショウ) せんちょうはかんようにし、ことうはしんしょうにす。

 手紙は要点を押さえて書き、返事は詳しく、明解に答えるべし。

(112)骸垢想浴 執熱願涼(ガイコウソウヨク シュウネツガンリョウ) がいにあかつけばよくをおもい、ねつをとりてはりょうをねがう。

 身体が汚れた時は入浴して洗いたいと思い、暑い時は涼を求めるものだ。

(113)驢騾犢特 駭躍超驤(ロラトクトク ガイヤクチョウジョウ) ろらとくとくは、がいやくちょうじょうす。

 小馬や仔牛、若い牡牛等の家畜が、遊び戯れて跳ねまわっている。

(114)誅斬賊盜 捕獲叛亡(チュウザンゾクトウ ホカクハンボウ) ぞくとうをちゅうざんし、はんぼうをほかくす。

 盗賊はただちに捕らえて斬り殺す。逃亡する者は探索し縄をかける。

(115)布射遼丸 嵇*琴阮嘯(フシャリョウガン ケイ*稽キンゲンショウ) ふのしゃりょうのがん、けいがことげんがしょう。

 呂布の射弓、熊宜僚の弄丸、嵇康の琴、阮籍の嘯は名高い。(名手達)

(116)恬筆倫紙 鈞巧任釣(テンピツリンシ キンコウジンチョウ) てんのふでりんのかみ、きんのたくみじんのつり。

 蒙恬は筆、蔡倫は紙を創り、馬鈞は指南車、任公は釣り具を考案した。

(117)釋紛利俗 並皆佳妙(シャクフンリゾク ヘイカイカミョウ) ふんをときぞくをりする、ならびにみなかみょうなり。

 縺モツれを解明し世の中に利する、呂布・宜遼・蒙恬・蔡倫、皆才人。

(118)毛施淑姿 工顰妍笑(モウシシュクシ コウヒンケンショウ) もうしはしゅくしにして、たくみにひんしなまめかしくわらう。

 毛叱や西施は淑やかな美人で、眉を顰シカめても、艶笑してもまた美し。

(119)年矢毎催 曦暉朗耀(ネンシマイサイ ギキロウヨウ) ねんしはつねにせまり、ぎきはろうようす。

 年月は矢のように早く過ぎて、日は輝き、月は明澄に光を投げかける。

(120)璇璣懸斡 晦魄環照(センキケンアツ カイハクカンショウ) せんきはかかりめぐり、かいはくはめぐりてらす。

 天体は宇宙を巡り、日月は循環して時に暗く時に明るく照らす。

121〜125 (01) (11) (21) (31) (41) (51) (61) (71) (81) (91) (101) (111)

(021)指薪修祜 永綏吉劭(シシンシュウコ エイスイキッショウ) たきぎをさしこをおさめ、ながくやすんじてきっしょうなり。

 薪の火が絶えない様に修身を続ければ、幸福は永く子孫にまで及ぶ。

(122)矩歩引領 俯仰廊廟(クホインリョウ フギョウロウビョウ) くほいんれいし、ろうびょうにふぎょうす。

 歩く際は項ウナジを伸ばし、俯仰の常々に謹みと礼を失せぬこと。

(123)束帶矜莊 徘徊瞻眺(ソクタイキョウゾウ ハイカイセンチョウ) そくたいきょうそうにして、はいかいせんちょうす。

 正装した時は厳然と威厳を保ち、そぞろ歩く時も、端正であれ。

(124)孤陋寡聞 愚蒙等誚(コロウカブン グモウトウショウ) ころうかぶんなれば、ぐもうとそしりをひとしくす。

 頑なで知識が偏り見識が狭いと、愚か者と謗ソシられても仕方がない。

(125)謂語助者 焉哉乎也(イゴジョシャ エンサイコヤ) ごじょというものは、えんさいこやなり。

 文章には語助というものがあり、それには、焉・哉・乎・也などがある。[頁頭へ]


 この「千字文」は、中国、梁(りょう:AC500前後)の周興嗣(しゅうこうし)が、武帝の命により文字習得のための教材として作ったものです。重複しない千文字を使って、名君や賢人、武将、庶民の生活や歴史をを語り、人としての生き方等々を四字一句、二百五十句の四言古詩の韻文に鏤(ちりば)め、一晩で作ったと言われています。作者の周興嗣(しゅうこうし)は人並外れた極めて優秀な文章家だったのでしょう。
※全て違った文字で、一字も重複していないが、「女慕貞求vの「求vと「紈扇圓潔」の「潔」は音も意味も同じの「異体字」で、テキストによっては扱いが異なる。
※数字の「一」(「壹」は入っている)「三」「六」「七」、方角の「北」、季節の「春」、地理の「山」等、初学者に必要な漢字が抜けているものもある。そして、233文字が現在の日本の常用漢字外である。
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