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=日 々 逍 遥=
[ ≫時々の記≫ ]

こちらには 「日々逍遥」「時々の記」 をWEB版として掲載しています。



□くちなしの花   □地(つち)の慟哭   □夜空のしづく



「くちなしの花」

冬枯れの木立に百舌の二羽三羽 たはむるる早朝暖かきかな
枇杷の実は色付き初めぬ五月雨の しづくに遠く思ふ人あり
落ち葉少し舗道の隅に溜まり居て 家並み静かに夕明かりさす
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こほろぎの声やはらかく満つる庭に 初秋の夜の月は照りつつ
母の日にアルバムとりて在りし日の 母の笑顔を懐かしみたり
時雨なる垣根の露に懐かしく 母は見入りて祖母を語りき
わびしらに紅葉の花の散るといふ その旅行きの手紙に記しあり
くちびるに葡萄含めば酸味(すみ)あはく 季節(とき)既にして秋に入りたり
==============================6=
柿の実の朱(あけ)艶やかに潤ひぬ細雨(ささめ)降りつつ今朝の静けさ
心より笑ふことなき日々なれど されど安らけき日々憎らしき
ものが皆不浄に見ゆる日この命 断ちてみたき日冴ゆる月影
梅が香に春を思へばあげまきの 夢なつかしき故郷の山
人恋ふるかなしみ秘めて春の夜を 桜の花にまぎれてしかな
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秋日射す林に入りてほの紅き ひと葉拾ひてそと口接くる
冬の日の夕べを寒く街角の 茶房に熱きコーヒーすする
一杯のコーヒーすすりひと時の ぬくもり保ち風のまち行く
人の子よ裡に秘め置け哀しさの 淡き思ひのひとつやふたつ
希望とも夢とも知らず空しさの やや薄らぎぬ雲の流れに
==============================8=
昨日より少し優しい今日がある 仄かな明かり照葉(てるは)の小径
雲ひとつ富士にかかりて澄む風に 蕨摘むらし野に遊ぶ児等
あかあかと燃ゆる炎にかざす手の ぬくもり愛(かな)し落ち葉焚くころ
その妻と二人営む酒場あり 手際と呼吸(いき)と値書きの年輪
しののめのほのかに白き光受け 豆腐屋の行くまち静かなり
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喜びもはた悲しみもうつし世の わがながらひにうたはともしび
熱き血のたぎり空しくうつしみの わが二十五歳(にじゅうご)は凡々と逝く (025)
==============================10=



「地(つち)の慟哭」

過ぎし日のかの確執も慕はしき その友逝きぬ三十路半ばに
逝きし友のその子我が子と同じ歳 葬列の横ラジコン走る
生き行くに矛盾に満ちて日が暮れて やがて明日の陽がまた昇る
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甘い理想とあざける声が胸よぎる 本音の前を妥協が遮る
赤信号みんなで渡れば怖くない げに言ひ得たりニッポンの罪
人が皆一人ひとりと算術の 上手くなる時代野菊が眩しい
哀しき時代おのれに素直な真実が 罪に見ゆる日じっと空見る
不確かな明日への淡き希望なれ 胸の小さき夢のともしび
==============================12=
飢ゑし生命ふところ手して眺めゐぬ さらに悲しき病める魂
手に少し温もり秘めて天仰ぐ 妻の乳房のひとつ消ゆる日
五十年生命を留めて舞ひ得たり 忘却といふ宝ひそめて
蒼い孤独追風(おいて)の誰か振り返る 冷たき闇の地(つち)の慟哭
さきがけて豊かな国に生きて在りて 余饒の罪に甘んじて居る
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暑き日も少しまばらにこの日頃 確かなる季節の足音を聞く
世に遠くアラブの戦争(いくさ)聞きながら 神々の罪思ひてはみる
微笑といふ悲しみ癒す花がある 散るな蕾のままでゐてくれ
満ち足りて過ごせる日々と言ひてみる 陽はうらうらと春の青空
かの時のかの風景に重ねつつ 菜の花畑に子等と来てみる
==============================14=
青き香の菜の花畑に子等と来て 真中の春と今日を愛しむ
自爆といふ極限の死に散る生命 特攻の国が横目で見てゐる
かの砂漠一輪の赤き花が咲く 枯れし葡萄の幹のかたはら
花は咲けど安寧の日の夢遥か アラブ アフガン アフリカの春
老ひし義父(ちち)と義母二人住む古りし家に 柿の実青く夏の風吹く
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名は五木ダムの湖底に沈むといふ その山里に子守歌流る
柿の実は私の小さな玉手箱 秋の夕べの父の思ひ出 (050)
賢しらに語りし後の虚しさや ガラス戸開けて外の風吸ふ
ひと口の水さへ飲めぬ子らがゐる 飽食の街ゐのししが群る
吾よりも悲しき海に歌ふ人 癒やせ冴え敷く満天の星
==============================16=
耳遠く老いゆく兄の髪の色 かの日の父に重ねて見るも
殺戮が平然としてそこにある 達観の国悲しくないか?
誇りもて子に渡すべき祖国(くに)なれや 茫々として夏の青空
開墾碑草に埋みて秋に入る 美食の国の虚構の栄華
黄に光るオクラの花の小鉢(はち)ひとつ 夕餉の膳に今日を畢んぬ
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小鳩来て庭に砂浴む昼下がり 残りの夏を風浚ひゆく
欲望の刹那に生きて見る夜空 現(うつつ)の夢が侘しくないか
風の如く月日さらさら去り行きぬ 師走初雪白菊の花
弱肉を当然として住む世界 生きねばならず生きてはならず
ひた走る欺瞞の豺狼血に漬(ひ)ぢて 呵呵と魔性の詭弁が吠える
==============================18=
呪はれて世に置かれ居し生命かは ヒトといふ名の悲しき魂
高山に雪積む季節をなほ高く アフガンの空爆撃機行く
野の雀谷間の百合(マタイ伝六・二六〜)の遠さかな ただ只管に踏むけもの道
真実とは夢の彼方の蜃気楼 黒き花園カオスが謳ふ
季語なんてもう死語みたい花あまた 温室育ちが店に溢るる
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どことなく亡父に似たりしその顔に 詫びるが如く優しくしたり
少年のこぼつ涙の如くして 風なき風に山桜散る
げに死なば花の下にと言ひ得たり 照る望月に夜桜の舞ふ
十坪余の仕事場に篭りひと日過ぐ ひと日ひと年ひとつの世過ぎ
忙殺の日々に住み居て世事遠し パノラマの如く夢のごとくに
==============================20=
焼酎の香りが少し違ふねと コップ見てゐる飲めもせぬ人
岩に散るクルスの海の波白し 果てよ砕けよ暗愁の夢
笑み居たり嫗九十九歳児のごとく 白髪のその子の運ぶケーキに
泣けと如く柳の緑見ゆる人 その人の代の懐かしきかな
海越えて悲しき歌の渡り来ぬ 子に聞かすまじ同じき挽歌
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平和といふ甘い誘惑がそこにある 食らはば食らへ未熟の林檎
花園に垣根廻して生きてあり 遠き喧噪聞かず聞こえず
グラウンドゼロ誰か定めし座標点 そこには厳然とヒロシマがある
今日ひと日虚構に住みて日が暮れて 糧を得たりて虚しき安堵
山茶花はかの一言をその人に 言へざりし日の山茶花の花
==============================22=
カミさんと鼾で交はすラブソング ゆく日過ぐる日薄羽かげらう
夏まつり合図の花火こだまして 小さき下駄が表を走る
言の葉が浮かびてはふっと消えてゆく 昔引き出し今は大空
いま五年片乳の妻と歩み来て 「はや」てふべきか「まだ」てふべきか
これもエコあれもエコよと威張らうか 貧乏 辛抱 日々是口実
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壊れゆく君の私のアイデンティティー まほろばの郷遠きいにしへ
こほろぎの声聞きながら寝(いぬ)る夜 子の住む街は嵐吹くらし
小春日のその麗らかさが罪に見ゆ 壊れゆくこの大地(つち)に立ち居て
秋津島いずこの国か我が物顔に 異国の戦機空駈け回る
敬虔の欠片ひとつもあらばこそ 陽気なサンタ街にさまよふ
==============================24=
おどけたる内緒話の如くして 細き涌き水流れて落ちぬ
雲重く菊の涙かしんしんと 師走の街を氷雨降り継ぐ (095)
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「夜空のしづく」

古書に栞る銀杏の古葉(旧時の虫除け剤)温かし ただひっそりと書を守りて
歯医者さんマスクの下でもごもごと 今時腕より口だよあんた
本末転倒そんな言葉もあったっけ 世の中逆立ちして渡らうか
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青い地球薄きガラスの危ふさよ ホモサピエンスの饐えたる腐臭
腸(はらわた)が煮えくり返ると言ふけれど 俺のは気化して消えっちまいさう (100)
間違ひの電話の向かふに懐かしき 昔言葉の老婆が詫びる
彼岸花植ゑて置かれてぎんぎらぎん こぼれた異端のひとつが眩しい
草も木も薙ぎて倒して行く台風(かぜ)よ ついでに浚へ心のあくた
==============================28=
春キャンプ球場へ向かふ歩行者が 車列の横を追ひ越してゆく
詠めるなら詠んでごらんとカタカナ語 ずらりと並ぶフラワーショップ
うぐひすの初音優しく森わたる 薩摩霧島弥生つごもり
登山道先ず子が登る父が追ふ 少し後れて母親がゆく
若者の喘ぎ知りめにすたすたと 八十路の嫗韓国岳(からくに)登る
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価値観の隔たり開きゆくこの日 それも時代か私の年齢か
散る花をひとり見てゐる若娘 淡き茶髪(ちゃぱつ)が微妙に似合ふ
覚え切らぬごみ分別の箱並ぶ しばし迷ひて妻に手渡す
格差社会「誰もが私はほぼ勝ち組」 浦島太閤夢のまた夢
おいお前…ふと言ひかけて口つぐむ お頭(つむ)の事はくはばらくはばら
==============================30=
情報過多温故の暇あらばこそ 知新知新と胃酸が弾く
その父に山椒魚と言い張る子 バケツのイモリがくしゃみしてゐる
蝉すだくせめて命のある限り… なんて儚さ微塵も見えぬ
「譲る」といふ尊い美徳が消えてゆく 桜・撫子絶滅危惧種
餓鬼が舞ふ阿修羅が踊る人が泣く 袖で天狗が酒飲んでゐる
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日々日がな三面記事に花が咲く 朝のニュース夕べの史籍
言の葉が妖しく響く夜の街か 袖も触れ得ず虚飾の回廊
恥ぢらひも罪の意識も消え失せて 遠きオアシス美(うま)しまほろば
くちなしの白き花咲く日暮れ道 ほうっと大きく息をしてみる
あの星も昔は水があったそな この星もすぐ「あの星」になる?
==============================32=
ヒトといふ小賢しきもの置きたるは 神の誤算か有為の錯誤か
ミサイルも機銃も要らぬ既にここに 原発といふ弾頭がある
核拡散近い未来に子ら言はむ「シェルター買ったよ一緒に住まう」
裏おもて活字ばかりの年賀状 読むは名のみの春の寒さや
至るべき当て所も見えず何急ぐ 師走北風舞ひ散る落ち葉
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舗路割りて青紫のふたつ三つ 生命存(ながら)へ冬のりんだう
縄文杉君を傷めに人が行く 怒れ欺瞞のエコと称賛
師走はや半ばを過ぎて城山に 太鼓の稽古終日続く
午後八時「当確」の文字が画面這ふ 投票終了待ちわびし如く
盆栽に明け暮れ居ぬと義姉ぼやく 兄の背中に春陽降りつつ
==============================34=
懐に少し嬉しき想ひあり 今日はニュースを読むのは止さう
耳も目ももう駄目でねと嘆きけり 九十歳越えて畑打つ嫗
誰か植ゑし墨田の花火薄青く 野辺の地蔵の横に咲きあり
山清水足を浸して児の如く そのせせらぎにしばし戯る
我のみは幸せといふ蜃気楼 そこもかしこも極温暖化
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けもの等は食はんが為に爪を磨ぐ 人満ち足りてまだ牙を剥く
何聞くも不条理ばかり若からば 多分私は罪人たらむ
不条理を常理と知れと古人言ふ…などとついつい言ひたくなる日々
あなたにはあの青い星が見えますか 涙色した夜空のしづく
「ガキ大将」そんな言葉が懐かしき 賢しらなる児政治を語る
==============================36=
眠るのが少し惜しくて眺め居ぬ とんがった夜のまん丸い月
あの星を取ってくれろと泣く子など 居やせぬ時代も夜空は夜空
重暗きニュース聞きつつ絶えて弾かぬ ギターの弦を換へてみたりき
古き絵の煤洗ひつつひもすがら 人語恋しくラヂオをかくる
上(かみ)に傲る権門の罪聞きながら 昭和維新の歌口ずさむ
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午後の陽に背中あぶりて本を読む 風無き冬の庭の陽だまり
「私ァもう煙草をやめて三十年」 誇らしげに言ふあなたは九十歳 (150)
親しきは皆故郷出でて異郷なり 戻りし吾は故郷の旅人
どこからかご〜んと鐘の鳴る音が 聞こえて来さうなそんな夕焼け
不況風やはり身に沁む半?華街 師走週末そぼ降る小雨
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キャンパスに人影消えてコスモスの ただ揺れてゐる秋の日の午後
ダイエット重心少し変へてみる ひと桁グラムの自己満足に
下校時の「もみぢ」のチャイム流れ来て 夕風寒く落ち葉掃きゆく
城山に目白鳴く声遠渡る 肥後守(ひごのかみ=ナイフ)など想ひ乗せつつ
夫婦仲よろしきかなと人の言ふ ざけんな!いいのは俺の辛抱
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バーチャルの世上にありて夢食らふ 歪みも出るさ花はくれなゐ
疑心暗鬼古典の中に夢拾ふ 「信頼」だとか「誠実」なんて
そこいらにきっとあのメモ置いたはず 探して探して探してま〜は〜る〜
猫舌が湯割りの焼酎吹いて飲む ちびりちびりと熱燗もどき
青い花赤い柳の夢もどき 柳緑花紅陳腐んかんぷん
==============================40=
ナガサキよりも北京五輪が先にある 八月九日正午のニュース
よくもまあこんなに多くの水湛へ 浮いてるもんだねあの空の雲
怒るより諦むることに慣らされて 齢ひとつを今朝に重ぬも
蝉すだく其をうるさいと妻わめく なんて一句も吐きたくなる午後
生きて在りて食へて眠れて何希む 「知足」消したる現代語事典
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夢いくつ描きてはまた閉ぢて来ぬ いいさ今夜はラテンを聞かう
バベルの塔未完の夢の蜃気楼 梅雨の晴れ間に白雲浮かぶ
今日明日の境ひ目あたり最終の 上りの電車が音立ててゆく
天も地もカオスに満ちて暮るる宵 まあまあ旦那と月見草咲く
磯浜に誰か描きし砂の夢 満ち潮の波にべなく浚ふ
==============================42=
わが子より勝れる宝多き時代 子に如くは無きあの国何処
扉開けてコンクリートの屋に入る その人の墓は今様の墓地 (175)
いっちゃ〜くスピードく〜ん(スピード社水着)英こ〜く 選手を着けて水着が泳ぐ
風寒し春は名のみと歌ひしは 待てば雪消の希望あるころ
日向岬春の海原蒼くして 鳥声繁し藪椿咲く
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春なのにお花見なのに週末を 底意地悪く雨が降る…ばか
年度末慣れぬ帳簿を預けられ 昨日も今日もエクセルごっこ
エクセルを信頼出来ずもう一度 電卓叩くアナログな人
前触れも無くていきなり失礼な! 「更新プログラムをダウンロードしています」
「芝蘭自香」鴨居の額の色褪せて 時の流れに戸惑ひて居り
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くねんぼも柚子も蜜柑も屋敷覆ふ 我が生れ家は黄の垣の中
豊饒の錯誤にはまる奢侈(しゃし)の街 天空裂きて明け烏鳴く
まだ咲かぬ梅の小枝に目白来ぬ ちょっぴりごめんと詫びたくなる日
青空にかの城山の鐘渡る 師走延岡落ち葉の並木
耳遠き老兄は時折り寂しげに 遠く見つめぬ話題に入れず
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野仏はその坂道の登り口 森の大樹を負ひておはせり
ステテコが一足飛びに冬パジャマ 夏パジャマ邪魔箪笥の肥料(こやし)
明日はやや暖かくなるとヘボキャスター さうか明日もまだ寒いのか
エコ謳ふ自慢の欺瞞が大手振り 闊歩してゆくイルミネの街
ガタゴトと鉄橋渡る音がする 夜汽車が僕を旅に連れ出す
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我が郷はもしかしてあの空の果て 鏡の星にゐる心地して
飢ゑもテロも遠くのことは遠きまま 極楽浄土赤とんぼ飛ぶ
向ふより大男来て走り抜く 体育会系猛者(もさ)の汗の香
い〜い湯だな〜…いえこれ焼酎湯割りの湯 五臓六腑は春爛漫と
黒揚羽庭に舞ふ日の午後の風 高校野球を運んで往きぬ
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夏休み児らどこに居る野辺はただ 蝉鳴き蜻蛉群れ飛ぶばかり
好々爺演じたかれど直ぐにぼろ 新聞読めばテレビを観れば
ピーマンが好きだと言へば山ほどに 今日も持ち来る優しき友よ…
ほぼ迷子通ひ慣れたる若き日の この道も遠きストリートビュー
思ひ出は古き行李の奥処なり セピア色した往復書簡
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そこにただ花ある故のまはり道 少し風吹く真夏日の宵
手のひらでそっと煽った紙風船 わが幼春の微かな記憶
閉ざす家にその鈴なりの枇杷の実は 枝たはめつつ色褪せてゆく
強風に煽られてゐる若木枝 偉いなぁさらりと受け流してゐる
我が孫は少し小さめやや晩熟(おくて) それでいいのだ爺婆孝行
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老いてなほ矍鑠(かくしゃく)たりしその人の 車内狭しと演歌が響く
爺婆がほらあれそらあのもどかしく いつもの会話夏の夜の風
大型連休ガソリン消費も大型に エコはヨコっちょにエッコらしょっと
早乙女と言ふには少し無粋なり 裳裾からげて田植え機走る
海凪ぎて太公望の春うらら 日向美々浜御船出の海
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桜散りわが梅の実も膨らみて あたふたと往く弥生つごもり
技術革新さういふ名前のエコ破壊 止むるに惜しきその密の味
この時代(とき)を化石のごとき職に居て 古木の梅を重ねてみたり
或はまた吾も?陀多(かんだた)たりなむや 春の青空雲流れゆく
射幸心そそる商売が成長株 さう言っちまっちゃあナンだけどもさ
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顛末の一部始終を話す妻 聞いてるうちにドラマが終はる
理由もなく重きもの胸に籠りたる 時としてある複合の混沌
時計が速く回る空間がそこにある 駅舎に立ちてそを懐かしむ
さながらに異国のホテルに在る如し 稀に懐かしき日本語聞こゆ
若き日の高尾の山に置く想ひ 覚束なきままに琵琶滝下る
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仲見世の喧噪のなかに孫と在り 肩車して人波を分く
腕はそれ悪くないとは信じつつ 酔ひ醒めてゆく妻のハンドル
いつしかに爺と婆とを住み分くる をさなごの顔大人びて見ゆ
霧島は万緑叢中白点々 夏椿の花いま盛りなり
心裡には怒り籠れど口つぐむ 誰もが優しき虚構の慈愛
ぴくりとも枝動かさで風止まる 今日も暑うくなるのかしらん
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人間らしく…古き書物の一行を 時代といふ墨汁が塗り潰してゆく
別居してともに親看る夫婦あり ともに親無きを複雑に思ふ
これが最後これが最後とストーブを 引っ張り出しては点す花冷え
鶯のほけきょと鳴いて薮揺れて 木漏れ日うらら桜島見ゆ
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三角と四角で暮れて夜の月 まあるく丸くほら眠れよと
うす紅の花は吉野に先駆けて はや満開の牟田桜花
百八は俺にゃ鼻くそ除夜の鐘 願ひもせぬにのさる(授かる)煩悩
理屈屋が理屈納めて眠る夜 月の田圃で蛙がうたふ
悪筆もここぞとばかり存在感 活字居並ぶ賀状の束に
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PC時代追はれる日々を笑ふ君 きみのその日は知らぬが仏
雪積むと四囲に白しとメールあり 寒もそろそろ果てむとする日
初雪は弥生十日の昼日中 はらりはらはら風に舞はされ
畦焼きの煙けぶれるその向ふ 見え隠れして耕運機走る
早春賦土手の土筆と菜の花と 早まりしかと身を震はせて
==============================56=
灯の消えて高鳴り癒えて酔ひ冷めて 緑の風が星を揺る夜
入り日いま影を延ばして西傾ぎ 小風(かぜ)にふうはり夕桜舞ふ
因果応報時空に在りて縁と言ふ 時空を超えて運とは言ふと
見えぬ明日に命疎ましき日もありき やや色褪せて青の彷徨
日向の海美々津の浜の青の磯 浜萱草の花あたたかき
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数珠玉はまだ青くして秋深む 燕川面をかすめて行きぬ
あの人は変はり者かと友聞き来 いいや貴方と似たり寄ったり
たかが三十と一つの文字が難儀なり 六十路半ばの夏終ひゆく
==============================58=





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