=「書写体」 考=

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時々 「崩し字」 とか 「略字」 という言葉を耳にしますが、これは本来の 「行書・草書」 とは少し意味が異なるようです。「略字・崩し字」 は、日本人にとって もう少し 「寛容で身近な手書き文字」 だったような気がします。
当講座では、現代の 「日常の用に供すべき手書き書体」 を、仮に 「書写体(筆記体)」 として考察しています。

=書写体(筆記体)とは=

 漢字のご本家は言うまでもな く中国ですが、その書体の変遷は大まかに「篆書→隷書→草書→行書→楷書(→簡体字)」のようで、本来の「行書」や「草書」は必ずしも「楷書の省略形」ではないようです。

 その後 我が国へも伝来しますが、その “数” も “音” も “使い方” も多分に本邦独自の発展を遂げつつ、江戸幕府の “実務の為の公用書体”、所謂「御家流」が、明治初頭まで日本の「書」を席巻していました。
 「崩し字」とか「略字」という言葉も、その幕府の文教政策としての “寺子屋” や、その手本書 “往来物” 等を通して広く一般庶民にまで浸透する過程で、自然発生的に定着した言葉のようです。維新に臨んで明治政府は、この幕府色の濃い御家流を排し “正統” とされる中国書体(唐様)を正式な書体として採り、多少の曲折はありつつも現在の「常用漢字」に至っています。

 然し現在のその常用漢字は約 二千字、人名用まで入れると約 三千字です。「漢字」の総数は十万字以上、日本の漢和辞典は凡そ一万字前後が主流のようですが。この常用漢字でさえ、その “三千” という数は半端ではありません。しかもそれを覚えて書くとなると・・・態々 “御家流” を言うまでもなく、その “ご本家” も、木簡とか章草、その他諸々の過渡期の書跡等を見ると、結構面白いー言わば破調のー省略形が少なからず、書体変遷の思考の跡がよく分かります。また中国現行の “簡体字” においても、「草書が原点」とは言うものの得体の知れない形も多々あります。

 ともあれ、私達が現在日常的に使う “楷書” の省略体として、正統な 行書・草書も無論、これらの 日・中の 外様?の書跡や思想をも鑑みながら、楷書よりやや速く書け、誰にでも覚え易く読み易い 「実用に供する書体」を考えてみよう、というのがこの「書写体(筆記体)」です。
 ただこれは本来の漢字や書体を云々するものではありません。そこへの思いはむしろ真逆(※)で、ここは、喋るだけで事足りる今日、「それでも手で書く」必要に応える、あくまでも “実用” に拘っています。

木簡(モッカン)=墨で文字を書くための短冊状の細長い木の板。竹で作られたものは竹簡と言う 紙の普及と共に徐々に廃れた。
   書体は本字から略字まで多種。
章草(ショウゾウ)=隷書の早書き体(草隷)から発展した、隷書から草書への過渡的な書体。各字は独立していて続かず、まだ
   波磔(ハタク="払い" の形)を備えた書体。木簡にも多用。

=選定・設定の 趣旨と略し方=

●先ず初めに、“書写体” と言うと、“文字と文字との続け書き” を連想させるかも知れませんが、それは “連綿”
 という また “別の書き方(※)”です。当然ながらここでの “書写体” は、あくまでもその漢字の範疇内において
 の、連続や省略された “体” を考察しています。 (※⇒和様体講座)

●無論 本来の行・草書と併せ 種々の書体辞典や古文書、史料、消息等をも鑑みつつ考察してはいますが、根本
 の “日常の” という趣旨から、必ずしも “高名な” 資料のみとは限らない為、“正統” を本分とする “現代書道”
 では、或いは “間違い” とされる可能性のある省略体も 敢えて採用していますので ご諒承下さい。

●省略は、覚える負担 書く時間の負担に鑑み、従来の行書・草書の固定観念に囚われず、他の漢字にも応用可能
 な基本的な省略形、一部首原則一種 を採りましたが、多画の繁雑漢字には “その部首の省略形として” 容易に
 分り “その漢字として” 誰にでも読める程度の “進化形” も採っています。

●“実用” には “美しさ” 以前に、“書き易く読み易い” ことが先決です。 は、慣れて沢山書いていくうちに自
 ずと、必ず程々には整ってきます。 “それ以上” は また別の命題(※)”です。(※⇒和様体講座)

●…等々を、日常よく使う言葉を常時使いながら学ぶべく、128文字の「基本字鑑」と、それらの個々の文字に
 ついての書法解説を組みましたので、これをひと通り学べば大抵の漢字に応用出来るものと思います。また、頻出部首を纏めた「部首統括」や 索引紛いの「部首画数別」も置きましたのでこれらもご利用下さい。


=下項が 設定の主な基準です=

連続する画接続、又は同化(変形、変向も)させて減画する。(ほぼ全ての漢字部分)

多重画は、点画も棒画も三画は二画に、四画は三画に減画(但し、主画は不略)する。(無,受,長,馬…)

〇多画漢字中、左右に並ぶ同形の画も、一方(通常右)を「(ク)」として減画する。(賛,質,節…)
  ※上下に並ぶ同形画も左右に準じるが、形は漢字夫々に応じて異なるものもある。(歌,唱,雛.繁…)

〇左右に並ぶ横棒画(ほぼ近い高さ位置)は接続共有させて減画する。(北,皆,町…)

〇上下に並ぶ縦棒画(部首中心線)斜画も、接続共有させて減画する。(漆,様,藤…)

四角で囲む画は 下画を省略(中空「口クチ」は更に多様に変化)して減画する。(口,日,目,田,国…)

「大」や「人」で蓋う画は「ノ×一」に作り、横棒画の右を返して右払いを減画する。(巻,暮,奉,添…)

〇そして、常用漢字で既に省略してある部首=變→変、勵→励、殘→残 等は、濤→涛 のように常用漢字以外
 の漢字にも適用
して良しとします。(教科書では不適)

※説明は “書体(画形)” 主体ですので、多くを片カナに拠って記述してありますが“筆法(書き方)” は平がなを
 以て考えると理解し易いかと思います。但し故意に丸める必要はありません。
 尚 画像は毛筆になっていますが、本講座が毛筆講座の為で、「書写体」に関しては 筆記具は問いません



=書き方(筆法)について=

●「書写体」はあくまでも「」ですので、書き方(筆法)はごく普通に “楷書風” の書き方で結構です。
 ただ書写体自体 “スムーズな書き易さ” が本分の 体 ですので、離す画でも 常に "前画を受けて〜次画へ" の
 意識 が基本となりますので、慣れると つい続けたくもなりますが、故意に続ける必要はありません。
 或いは、小学校で最初に習ったあの初歩の “平がな” の要領、と言っても良いでしょう。自然な筆勢や連続
 は厭いませんが、“きちんと書いた結果” 以上の連続は むしろ不要です。

●「筆順」は正しくしっかり覚えましょう。筆順は “決まり” ではありませんが “最も形の整い易い順序” とし
 て自然に定着したものです。殊に書写体においては “楷書と順序が変わる” ものや “逆順でも良いもの”、又
  “順序通り書かないと上手く書けない” ものも多くあります。

●崩し方を学んで “知” っても、圧倒的に書くことの少ない現代、それを使いこなすのは大変難しいことです。
 普段使う言葉の中で “慣れ” て下さい。誰にも読める小ささな崩しでも、筆順との相乗効果で 相当の短縮が
 可能です。尚、検索や画像の拡大は、必要な場合はブラウザの機能をご利用下さい。

ある「部首の頻出度」という調査 があり、よく使われる部首は、上位から順に、
 1)(河,氷)、2)(天,候)、3)(拝,手)、4)(木,樹)、5)(慢,恩)、6)(河,嘆)、7)(読,謹)、8)(縁,
 繁)、9)之繞(遷,遠)、10)(地,座)、…以下、(草,前)、月,肉(月,朝)、(賢,貴)、(時,春)
 …等となっているようです。
 括弧内は「基本字鑑」の当該文字です。字鑑には その他の部首も殆ど置いていますので、主要な部首の 基本
 的な省略だけでも覚えれば、書写のスピードが格段に上がります。少しづつ、徐々に覚えて下さい。


=凡例=


=&、余談=


=参考文献等(一部)

書籍:
 書道大辞典(角川書店),書源(二玄社),五体字類(西東書房),五体篆書字典(木耳社),朝陽字鑑精粋(西東書房),印文学(台北芸文院書館),
 異体字解読字典(柏書房),古文書判読字典(柏書房),くずし字用例字典(近藤出版社),くずし字解読字典(近藤出版社)・・・他。
WEB:
 漢字字典オンライン(kanji.jitenon.jp),漢字/漢和語源辞典(okjiten.jp),字源(jigen.net/),漢字ペディア(www.kanjipedia.jp/),
 新漢字・旧漢字対照表(www2.japanriver.or.jp/),国立文化財機構 東文研 異体字リスト(www.tobunken.go.jp),
 繁体字 簡体字 新字体 対照表(jgrammar.life.coocan.jp/ja/tools/ksimple.htm),
 史的文字連携検索システム(mojiportal.nabunken.go.jp/):(奈良文化財研究所,東京大学史料編纂所,京都大学人文科学研究所,
  漢字字体規範史データセット,史語所藏居延漢簡資料庫簡牘字典,HNG 単字検索,国文研字形検索β)
 国立国会図書館デジタルコレクション(dl.ndl.go.jp/), 東京学芸大学望月文庫(d-archive.u-gakugei.ac.jp/collection/orai),
 群馬県立文書館IN講座史料(www.archives.pref.gunma.jp/course/),
 新潟県立文書館IN講座史料(www.pref-lib.niigata.niigata.jp/?page_id=590)・・・他、諸地域図書館史料館史料等。
 WikiDharma(www.wikidharma.org/index.php/),  一行佛學辭典搜尋(buddhaspace.org/dict/index.php),
 マタイ傳福音書(文語訳)(ja.wikisource.org/wiki/マタイ傳福音書(文語訳))・・・他、各宗派/寺院/個人/解説サイト等。
  


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